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2013
2012

2013 11月22日 SpecialEdition SuperGTにJAF-GT300の居場所はあるか?
2013 9月18日 SpecialEdition SUPER CAR RACE SERIESは日本のレース業界の救世主か?
2013 6月19日 SpecialEdition 2013年ルマンにおける戦力分布図 ウサギのアウディvsカメのトヨタ
2013 5月10日 SpecialEdition WECスパ-フランコルシャン 2013年のルマンに勝つ方程式は見出されたか?
2013 5月2日 SpecialEdition SuperGTの海外戦略
2013 4月10日 SpecialEdition 本当にウサギのトヨタとカメのアウディ? 
2013 3月19日 SpecialEdition 2013年のSuper GT
2013 3月6日 SpecialEdition 2013年のGT300戦力分布図
2013 2月21日SpecialEdition カメさんに勝つため トヨタが編み出した勝利の方程式

11月22日
SpecialEdition SuperGTにJAF-GT300の居場所はあるか?

Photo:Sports-Car Racing

●GT300マザーシャシー構想はどうなった
 2年前GT300マザーシャシー構想が囁かれるようになった。その頃GT300へFIA GT3カーの参加が許されるようになって、たくさんのGT3カーが次々とSuperGTへ参加するようになった。その結果、中古車レースとなりつつあったGT300は一挙に活性化されて、華やかなスーパーカーレースへの道を歩み始めた。
 ところが、FIA GT3カーが増えても、元々GT300のために作られたJAF-GT300ルールに従って開発されるGT300マシンは、まったく増えなかった。そこでJMIAが中心となって、JAF-GT300レギュレーションの見直しが行われた。エンジン出力が増やされただけでなく、FIA GT3カーが備えていたハイテクの幾つかも使用が許されるようになった。

 このJAF-GT300ルールの見直しによって、FIA GT3カーに対してJAF-GT300マシンは、遜色ない速さを取り戻すこととなった。しかし、JAF-GT300マシンは、開発するのに技術を要するため、クルマを走らせるだけのレーシングチームが、容易に開発することは出来ない。もちろん、それなりの資金も必要であるため、JAF-GT300マシンが増えることはなかった。

 そこで構想されるようになったのが、ミッドシップでもFRでも、どちらの駆動方式であっても使用可能な汎用モノコックを開発して、それを安価に供給するGT300マザーシャシー構想だった。
 当時GTAは記者会見の席で「モノコック単体で200万円程度」と言う極端な低価格を主張していた。

 その後GTAは、GT300マザーシャシーを童夢が開発していることを公表した。今年夏になると、ボディーを除くシャシーの価格や、GT300マザーシャシーに組み合わせられるエンジンがニスモのLMP2エンジンであることが明らかとなった。ニスモのLMP2エンジンは、LMP2のルールに従って、約950万円で販売されている。この価格は為替レートの変動に合わせて毎月細かく変更されるが、現在GT300マザーシャシー向けのニスモLMP2エンジンの販売価格は900万円以上と公表されている。
 GT300マザーシャシーと組み合わせられる場合、ニスモLMP2エンジンにニッサンのバッジは着かない。例えばトヨタのクルマのボディを組み合わせる場合、トヨタのエンブレムを取り付け、ロータスと組み合わせる場合、ロータスのエンブレムを取り付けることも可能だ。

 ボディーを除くシャシーの価格は3,600万円と伝えられた。少なくとも、我々は3,600万円と聞いている。実際にGT300マザーシャシーを使って、マシンの開発を計画しているコンストラクターは、エンジン+シャシーの価格を4,500万円と注文主に計上している。これにボディの製作費が加わるため、GT300マザーシャシーを使ったJAF-GT300マシンは、最低6,000万円と考えられた。
 つまり、GT300マザーシャシーでJAF-GT300を作ると、FIA GT3カーの2倍弱の価格となってしまう。
 安くなるハズのマザーシャシーによって、逆に高価になってしまうため、GT300マザーシャシー構想は崩壊したと思われていた。

 ところが、ツインリンクもてぎでSuperGT最終戦が行われた際GTAは、「マザーシャシーを使って開発しているトヨタ86の価格は2,000万円だ。2,000万円以上払うつもりはない」と主張した。
 ニスモのLMP2エンジンの価格は、ルールによって約900万円と規定されている。つまり、エンジンを除いた、総てのコンポーネンツを備えるシャシー+トランスミッション+ボディ=1,100万円となってしまうため、GTAが主張する2,000万円は相当楽観的な価格だ。しかし、元々マザーシャシー構想は、この程度の低価格を可能とするための計画であるから、GTAの主張が間違っている訳ではない。

 GTAによると、マザーシャシーを使って作られる2,000万円のトヨタ86は2月に完成するらしい。
 あまりにも大きく数字が違うため、「マザーシャシーを使ってトヨタ86のJAF-GT300マシンを作ると、トヨタから4,000万円の補助金が与えられる」との噂さえ、囁かれる事態となっている。

Photo:Sports-Car Racing

●本当のマザーシャシー構想はAPRだ!
 GT300マザーシャシー構想が囁かれるようになったのは、ほんの2年ほど前のことだ。しかし、その遙か前から、事実上のマザーシャシー構想を推進していたコンストラクターが存在した。APRだ。
 APRは、10年以上前トヨタMRSのJAF-GT300マシンを開発した。このトヨタMRSのJAF-GT300マシンは、クルマの真ん中はオリジナルのフレームを活用して、新たフロントセクションとリアセクションにパイプを組んで作ったフレームを設けていた。
 MRSの後APRは、カローラをベースとして、事実上MRSのものと同じフロントセクションとリアセクションのパイプフレームを使い、JAF-GT300マシンを作った。MRS同様クルマの真ん中はカローラのフレームを活用したが、基本的に同じコンポーネンツを使って、APRは、まったく違うJAF-GT300マシンを作り上げてしまった。

 昨年APRは、カローラに変えて、新たにプリウスをベースとしたJAF-GT300マシンを作った。MRS以来と大きく変わらないフロントセクションとリアセクションのパイプフレームを使って、クルマの真ん中だけがプリウスに変更されて、再びAPRは、違うJAF-GT300マシンを作り上げてしまった。プリウスの場合、新たにFN/GT500用の3.4リットルV8エンジンとハイブリッドシステムが組み合わせられたが、MRS以来のAPRのアイデンティティが貫かれたJAF-GT300だ。

 つまり、APRのJAF-GT300マシンは、事実上のマザーシャシー構想だ。既に10年以上も前から、APRは、基本的に同じコンポーネンツを使って、まったく違うGTレースカーを3種類も実現していた。

 APRのフロントセクションとリアセクションは、パイプを組んだスペースフレームだ。10年以上も同じコンポーネンツを使って、まったく違う3種類のJAF-GT300マシンを開発したことでも判るように、非常に汎用性も高い。パイプを溶接して組み合わせているため、充分に許容出来るコストであることも、長い間使われている理由だろう。
 6,000万円もの高価格を要したら、遙か以前にAPRは、JAF-GT300マシンの開発を止めていたことだろう。
 もし、APRのフロントセクションとリアセクションを持っていれば、新たに違うマシンを作る場合でも、真ん中のフレームだけを新たに作るだけで、事実上のニューマシンを実現することが出来る。

 APRが推進する基本的に同じフロントセクションとリアセクションを使うJAF-GT300マシンは、高い汎用性と比較的リーズナブルなコスト等、GT300をターゲットとするレーシングチームにとって、最適なアイテムと考えられる。

Photo:Sports-Car Racing

●日本にJAF-GT300のマーケットは存在するのか?
 しかし、10年も前からAPRが推進したにも関わらず、他のコンストラクターやレーシングチームは、誰もAPRへ、パイプで組んだフロントセクションやリアセクションをオーダーしていない。
 非常に不可解な出来事だ。

 つまり、現在の日本には、どんなに優秀で、しかもリーズナブルな価格で実現出来ても、JAF-GT300マシンの開発を望むレーシングチームは非常に少ないと言うことだろう。2013年SuperGTでJAF-GT300マシンを走らせたレーシングチームは、何らかのカタチで自動車メーカーと関わりのあるらしい。FIA GT3カーを走らせている、たくさんのレーシングチームのほとんどが、自動車メーカーと関わりのない、純粋なプライベートチームである状況とはまったく違う。

 6,000万円のGT300マザーシャシーは論外だが、GTAが主張するように、マザーシャシーを使ったトヨタ86のJAF-GT300マシンが、例え2,000万円で供給されたとしても、有能なAPRの例を見ても、現在の日本に、果たして、そのマシンを走らせることを望むレーシングチームが、たくさん存在するとは思えない。

 JAF-GT300推進派、あるいはGT300マザーシャシー推進派の中には、JAF-GT300の方が速く、FIA GT3カーが遅くなるようなレギュレーションとすれば、JAF-GT300マシンが増えると主張する人々も居る。
 4年ほど前、明らかにJAF-GT300が有利だった時代、次々とJAF-GT300マシンが登場しただろうか?
 当時のプライベートチームの多くは、FIA GT2マシン、あるいはFIA GT2マシンをベースとして、ほんの少しだけ手を加えたマシンを走らせ続けた。困ったことに彼らは、性能調整による性能向上を期待して、古いFIA GT2マシンを長い間走らせた。
 観客は、この中古車レースを忘れてはいない。たった4年前の出来事だ。

Photo:Sports-Car Racing

9月18日
SpecialEdition SUPER CAR RACE SERIESは日本のレース業界の救世主か?

Photo:Sports-Car Racing

●新たなGTレースシリーズが求められる理由
 現在日本ではSuperGTが大きな人気を集めて、たくさんの自動車メーカーとタイヤメーカーの興味を集めているだけでなく、ほとんどのレースが大勢の観客を集めている。第一、4つの自動車メーカーが大きく関わって、5つのタイヤメーカーが参入して、専用タイヤを開発しているレースシリーズは、世界広しと言っても日本のSuperGTだけだ。
 この高い人気によって、日本ではエントラント、スポンサー、観客がSuperGTに集中している。残念ながら、SuperGT人気の陰に隠れて、スーパーフォーミュラやスーパー耐久シリーズは、様々な面で、辛い状況に陥りつつある。

 日本のレース産業は、大きく分けると、自動車メーカーやタイヤメーカー、マシンを作るコンストラクター、パーツを作るパーツメーカー、実際にレースでマシンを走らせるレースガレージ、そしてレーシング活動を運営するレーシングチームの5つの立場の人々(会社)によって構成されている。レースガレージ自体がレーシングチームやコンストラクターである場合も多い。
 自動車メーカーやタイヤメーカーはレースが専門ではなく、ほとんどの場合レースが生業ではない。レース活動を行わない場合、本業のロードカー関連の仕事を行うだけだろう。しかし、クルマやパーツを作るコンストラクターやパーツメーカー、そして実際にレースでクルマを走らせるレーシングガレージやレーシングチームは、日本のレース界の状況に直接影響を受けてしまう。

 ところがSuperGTに人気が集中した結果、逆に彼らは、SuperGT以外の仕事を得難い状況に陥っている。
 この不安定な産業構造を反映して、実際にレース活動を行うレースガレージは、レースの際働くメカニックを正社員として雇い入れないで、レースの時だけ、臨時に雇っている場合も少なくない。

 クルマを作るコンストラクターの場合、専門的な能力が求められるため、エンジニアやメカニックを正社員として雇っているが、仕事が減ると、即コンストラクターは存亡の危機に曝されてしまう。林みのるのJMIAが、F4やGT300マザーシャシー構想等、積極的に新たなカテゴリーを想像しようとした理由もここにある。コンストラクターの仕事の確保については、今年細々ながらレース開催に漕ぎ着けた、関谷正徳のインタープロトも、同様の目的を持っている。
 コンストラクターの仕事の確保については、JMIAやインタープロト等、幾つかのプランが提案されているが、コンストラクター以外のレースガレージの仕事の確保については、これまで目立ったプランが出されることはなかった。

Photo:Sports-Car Racing

 コンストラクターでないレーシングチームやレースガレージの多くは、SuperGTとスーパーフォーミュラの両方へ参加するか、この2つのカテゴリーの仕事を請け負うことによって、経営状態の確立を目指している。
 ところが、SuperGTでは40台以上のGTマシンが走っているのに対して、スーパーフォーミュラはせいぜい20台に過ぎないため、理論上、両方の仕事を得ることが出来るレーシングガレージは半分だけだ。当然スーパーフォーミュラ専門のレースガレージも存在するため、スーパーフォーミュラの仕事を獲得する割合は、より少ないと考えるべきだろう。
 しかも、スーパーフォーミュラが、2つの自動車メーカーの支援によって成り立っているため、スーパーフォーミュラの仕事を獲得出来るレーシングガレージは、2つの自動車メーカーと関わりが深いGT500のレーシングガレージの一部に限られてしまう。

 SuperGTの半分以上はGT300だ。2つの自動車メーカーがGT300と関わりがない訳ではないが、ほとんどの場合GT300を走らせるレースガレージにとって、スーパーフォーミュラは関係のないレースシリーズとなっている。
 これまでGT300を走らせるレースガレージやメカニック達は、スーパー耐久シリーズや、様々なマイナーカテゴリーの仕事を得ることによって、仕事を確保してきた。しかし、不安定な状況であることは変わらなかった。

 日本のレース産業の健全化にとって、これまでもスーパー耐久シリーズは重要な役割を果たすと考えられてきた。スーパー耐久は、500馬力を超えるGT3カーも走っているが、基本的にスポーツカーレースではない。GT3カーは7台か8台だけで、エントリーの大多数はチッポケなヴィッツやフィットからランサーターボに至るスポーティカーで、多くの場合、これらのレーシングチームには、ディーラーが大きく関わって、ディラーのメカニックが走らせている。有力チームほど、この傾向が強い。このような状況を反映して、GT3カーも含めて、多くの場合ドライバーもアマチュアのジェントルマンドライバーだった。
 このスーパー耐久の性格を考えると、プロのメカニックやレースガレージは、多くの場合助っ人に過ぎなかった。
 そのため、プロのメカニックやレースガレージが生業と出来る、新たなレースシリーズの実現が求められていた。

Photo:Sports-Car Racing

●求められるGT3カーだけのレース
 2年前からSuperGTのGT300へFIA GT3カーの参加が許されている。最初、本当のFIA GT3とは少々違ったルールが課せられたが、現在FIA GT3カーは、FIAが定めるGT3とほとんど同じルールによって、GT300で走っている。2013年の場合、GT300には20台を超えるFIA GT3カーが参加して、GT300のエントリーの8割を占める重要な存在となっている。

 ところが、SuperGTのGT300はFIA GT3カーだけのレースではなく、一緒にJAF-GT300ルールのクルマが走っている。シーズ開幕前、FIA GT3カーとJAF-GT300カーが同じ速さとなるルールを設けても、FIA GT3カーはギア比の変更さえ許されていないのに対して、JAF-GT300マシンは自由に開発することが可能であるため、シーズンが進むにつれて、巧妙に性能調整が行われない限り、どうしてもJAF-GT300マシンが速さを増して、FIA GT3カーは遅れることとなってしまう。

 JAF-GT300とFIA GT3が相容れない存在であることが明らかとなった1年程前から、FIA GT3カーだけのレースが求められるようになった。FIA GT3カーだけのレースを求める人々には、2つの種類が存在するようだ。1つは、GT300のタイトルを奪取するため、FIA GT3カーを選択した完全にプロフェッショナルなレーシングチームだ。もう1つは、アマチュアドライバーが乗り組んで楽しみのために参加するレーシングチームだ。ジェントルマンドライバーは、自分の限界を求めてレースに参加している。

 もちろん、新たにレースシリーズを作るのは容易でないため、彼らは既存のレースシリーズへの参加を求めた。スーパー耐久シリーズへ参加したレーシングチームもあった。しかし、スーパー耐久は、華やかなスポーツカーレースではないし、SuperGTと違って、たくさんの観客はいない。そこで、彼らは、GT3カーだけのレースを望むようになった。

 近年ヨーロッパを中心として人気を集めているGT3カーのレースは、一般的にプロ+アマ、あるいはアマ+アマのドライバーの組み合わせが条件となっている。SuperGTは、プロフェッショナルとアマチュアの区別を行わない、近年では世界的には珍しい、純粋な速さを求めたGTレースだ。日本では4年程前から、マレーシアのセパンを拠点とするGTアジアのシリーズ戦が、毎年2から3レース行われている。GTアジアは、FIA GT3カーのクラスと、GT4カー、そしてポルシェやフェラーリのワンメイクレースカーを対象としたCupクラスの2つが設けられている。

 アマチュアドライバーが乗り組んで、楽しみのためにレースに参加していたレーシングチームやドライバー達は、近年次々とGTアジアのレースへ参加するようになった。日本で行われるレースだけでなく、マレーシアやマカオで行われるGTアジアのレースへも参加している。
 現在のところ、日本の外で開催されるSuperGTは、マレーシアのセパンだけだが、アマチュアと言ってもトップクラスの日本のジェントルマンドライバー達は、当たり前の様に、東南アジアを舞台として活躍するようになっている。
 毎年8月末マレーシアの独立を記念して行われるメルディカ12時間レースは、今年メルセデスのワークスチームを破って、日本を代表するジェントルマンドライバーである濱口弘が乗り組んだフェラーリが優勝した。
 GTアジアの存在は、日本のレーシングチームやレーシングガレージに大きな刺激を与える状況となっている。

Photo:Sports-Car Racing

●SUPER CAR RACE SERIES構想
 3年程前から沖縄において、公道を使用したGTレースを開催する噂が囁かれるようになった。当時沖縄でのGTレースのプランは、少なくとも2つ存在した。東日本大震災の後、その内の1つが表舞台に現れた。この沖縄におけるGTレース開催について、話し合いを行っていたのが竹内浩典だった。竹内浩典の沖縄GTレース構想は、最初竹内浩典が実務を取り仕切っていたGTエントラント協会で公表され、その後GTEが主導するカタチで推進されている。残念ながら、少なくとも2つ存在したプランの一方は表面化せず、竹内浩典のプランだけが表に現れたように、現在でも、様々な問題を解決するため、実現には至っていない。

 沖縄でのGTレースが公表された後、彼方此方で囁かれるようになったのが、GT3カーによるSuperGT以外のGTレースシリーズだ。この新たなGTレースシリーズも、最低2つ、確認出来ないが、もしかしたら4つのプランが存在している。
 これらのSuperGT以外のGTレースシリーズの中で、最初に発表されそうなのが「SUPER CAR RACE SERIES」だ。現在のところ正式スタート前だが、「SUPER CAR RACE SERIES」は、既存のレースプロモーターやオーガナイザーではなく、SUPER CAR RACE SERIES推進委員会によって計画が進められている。この団体の責任者も、沖縄プランと同じ竹内浩典だ。

 竹内浩典が構想する「SUPER CAR RACE SERIES」は、基本的にFIA GT3のフォーマットを採用している。カテゴリー1(FIA GT3)とカテゴリーU(Cupカー)の2つのクラス、燃料補給を行わない60分レース、FIAが定めるプラチア資格のドライバー同士の組み合わせは許されず、プロ+アマ、またはアマ+アマのドライバーの組み合わせ等、FIA GT3フォーマットそのものだ。
 竹内浩典の「SUPER CAR RACE SERIES」には、これまで日本のレースを作ってきた様々な人々が関わっている。技術ルールのスペシャリストや一部のサーキットの関係者まで、この計画に関わっていることが確認されている。
  そして彼らもGTアジアに目を付けた。

 2013年の場合GTアジアは、4月から7月の間に日本で3つのレースを行っている。GTアジアのマシンと機材は、レースが行われてない時、コンテナに入れられて、ほとんどの場合富士スポードウェイで保管されている。
 「SUPER CAR RACE SERIES」は、GTアジアが日本に居る間にレースを開催することによって、GTアジアのエントラントに対しても参加の可能性をもたせている。竹内浩典によると、4月から7月の間だけでも3レース程度の開催を構想しているようだ。

 しかし、「SUPER CAR RACE SERIES」は、GTアジアが日本に居る4月から7月の間だけ開催されるレースではない。他のレースシリーズの様に、春から秋までのレースシーズンを通じて開催することを計画している。しかも、GTアジアの日本で行われるレースとダブルタイトルレースとしての開催を計画している訳ではない。
 あくまでも独自のレースシリーズとして、GTアジアとは別の日程で開催される別のシリーズとして計画している。

 当方は、竹内浩典から説明されるまで、「SUPER CAR RACE SERIES」について、GTアジアの日本シリーズの際混走するレースであると考えていた。勘違いしていたのは当方だけでないようだ。竹内浩典は、もてぎでGTアジアの責任者であるデビッド・ソレンシャーと話し合っているが、充分な話し合いが行われた訳ではない。デビッド・ソレンシャー自身、GTアジアの日本シリーズの際のダブルタイトルレースを行う相談と判断していた。

 また、SUPER CAR RACE SERIES推進委員会は、シリーズを統括するだけで、レースは、単独開催とする計画を持たない。各々のレースは、各サーキットで行われている既存のシリーズ戦の中で開催する計画を立てている。
 富士スピードウェイ、鈴鹿、もてぎ、岡山において、年間6イベント(12レース)の開催を目標としている。

Photo:Sports-Car Racing

●最大のアドバンテージはSuperGTとの共存
 現在SuperGTは、シーズン中、基本的にチームがコースを占有したテストの実施を禁止している。シーズン中に行われるテストは、GTAが認めるテストだけだ。元々、このルールが作られた理由は、メーカー間の過当競争を防止することで、主にメーカーが大きく関わっているGT500のチームを対象としている。このルールが作られた際、テスト同様コースを占有して行われることから、SuperGTに参加するレーシングチームが同じマシンとドライバーによって他のレースへ参加することも禁止された。

 同じFIA GT3カーが走るにも関わらず、20台を超えるSuperGTのFIA GT3カーを走らせるレーシングチームが、スーパー耐久シリーズへの参加を躊躇している理由は、このルールが存在しているためだ。
 と言っても、このルールが設けられた後でも、SuperGTに参加するレーシングチームとマシンが他のレースに参加した例が皆無であった訳ではない。チーム名やドライバーを変更する等、様々な理由を設けて、他のシリーズへの参加を実現した例もある。しかし、これらの例はあくまでも例外であって、基本的に不可能と判断すべきだろう。

 つまり、苦労して他のGTレースシリーズの開催しても、SuperGTのレーシングチームやレースガレージは、もう1台GT3カーを買わない限り、新しいGTレースシリーズに参加した場合、SuperGTへの参加を拒否されてしまう。
 SuperGTが、このルールを堅持する限り、シーズン中他のGTレースシリーズの実施は不可能と判断すべきだろう。

 ところが、竹内浩典の「SUPER CAR RACE SERIES」に対して、GTAの坂東正明は、アマチュアを対象としたレースシリーズであるため、SuperGTと同じレーシングチームがSuperGTと同じマシンで参加しても、黙認する意向を示している。
 この点は、「SUPER CAR RACE SERIES」最大のアドバンテージだ。

Photo:Sports-Car Racing

●SUPER CAR RACE SERIESが実現するポイント
 竹内浩典は、「SUPER CAR RACE SERIES」について、SuperGT、スーパー耐久、GTアジア、そしてポルシェを中心としたカップカー等を合わせて30台程度のエントリーが見込めると説明する。
 SuperGT以外のレースシリーズに参加しているレーシングチームにも、様々な欲求や事情があるため、彼らの欲求や事情を考慮すると、30台程度のレーシングチームを集めることも不可能ではないかもしれない。
 しかし、まったく問題がない訳ではない。

 GTアジアのエントラントの多くは、香港を中心としたアジアの億万長者だ。2013年までGTアジアが日本で3レースも開催される理由は、レースに参加するだけでなく、日本へやって来て、東京で美味しい食事を食べてショッピングを行い、箱根で温泉につかって楽しむことにある。2013年の場合3ヶ月に3レースであるため、1ヶ月毎1度だ。楽しみを目的として日本にやって来るのであれば、3レース程度が相応しく、それ以上の実施は難しい。GTアジアのデビッド・ソレンシャーが、「SUPER CAR RACE SERIES」をGTアジアとのダブルタイトルレースと判断した理由もここにある。

 先にSuperGT以外のGTレースは、アマチュアだけでなく、GT300タイトルを争うトップクラスのレーシングチームも望んでいると記したが、「SUPER CAR RACE SERIES」は、アマチュアを対象とするため、彼らの望むGTレースではない。
 彼らは、SuperGTとの共存を歓迎しても、「SUPER CAR RACE SERIES」へ参加することはないだろう。
 現在のGT300には、彼らの様なプロフェッショナルなレーシングチームが増えている。彼らがドライバーの1人をアマチュアと交代すれば、彼らも「SUPER CAR RECE SERIES」への参加が可能だが、彼らがプロフェッショナルにこだわるのであれば、SuperGTから充分な数のレーシングチームが、「SUPER CAR RACE SERIES」へ参加するとは思えない。
 彼らは、シーズンオフに行われるプロフェッショナルなGT3レースへの参加を準備するだろう。

Photo:Sports-Car Racing

 シリーズを運営するには、それなりの資金が必要だ。GTアジアは、香港スーパーカークラブのメンバーが、彼らが参加したいようなGTレースの実施を望んで、デビッド・ソレンシャーにシリーズの実現を求めたことによってスタートしている。つまり、スタートする段階から、エントラントが存在した。アジアの億万長者が相手であったため、確実にシリーズを実現するため、エントリー代金も安くはない。シリーズエントリーが3万ドル、1戦毎の単独エントリーの場合6,900ドルだ。高額なエントリー代金の理由の1つは、拠点とするマレーシアから日本やマカオへ遠征するためだ。
  SuperGT同様マレーシアと日本を往復するコンテナ代金は120万円だ。つまり、このコンテナ代金をカバーするエントリー代金が求められる。単純計算すると、日本で3レース開催しない限りGTアジアは赤字となってしまう。GTアジアは、映像の販売等、独自に資金の獲得も行っているためことを考慮すると、コンテナ代金を差し引いても、決してエントリー代金は安くない。その理由は、充分なホスピタリティだ。

 日本で70万円のエントリー代金を主張するのは難しいが、GTアジアの映像販売の様に、シリーズ自体が資金を獲得出来ない場合、エントラントに対して、高額のエントリー代金を納得させる方法を見出さなければならない。
 GTアジアほどではないかもしれないが、FIA GT3カーでのレースを望むドライバー達の状況は、日本でも大きな違いはない。ポルシェカレラカップがそうであるように、シリーズ主催者は、それなりのホスピタリティが求められる。レーシングチームが自分達自身でホスピタリティを整えると、レース毎数100万円が必要であるため、ここら辺を理由とすることとなるだろう。

 この様な様々な問題をクリアしなければならないため、現在のところ、「SUPER CAR RACE  SERIES」は発表には至っていない。しかし、非常に大きな魅力を秘めたプランであることは間違いない。SuperGT等様々なレースで経験を積んだ専門家が関わっていることもあって、これらの問題は次々と解決することが可能だろう。
 アマチュアのためのGTレースシリーズという限定した内容ではあるため、総ての人々に受け入れられることはないかもしれないが、「SUPER CAR RACE  SERIES」は日本にとって必要なレースシリーズであることは間違いない。  

Photo:Sports-Car Racing


6月19日
SpecialEdition 2013年ルマンにおける戦力分布図 ウサギのアウディvsカメのトヨタ

Photo:TOYOTA

 現在のLMP1ルールは、3つのガイドラインに従って作られている。3つのガイドラインとは、@同じパフォーマンス、A同じ燃費、B同じ給油時間だ。4月に行われたWEC開幕戦シルバーストーンの後、ガソリンエンジンカーの給油時間の長さが指摘された結果、5月初めに行われたWECスパ以降、ガソリンエンジンのハイブリッドカー(トヨタ)は、従来より1mm大きな直径26mmの給油パイプを使用した。スパの際アウディとトヨタの給油時間は同等と判断されている。

 スパの際、明らかにアウディの方がトヨタよりも速かった。しかし、ポールポジションからスタートしたアウディは、最初のスティントでトヨタより2周も早くピットに入った。他のアウディもトヨタより1周早くピットに入った。
 ルマンのサルテサーキットはスパの約2倍の長さであるため、スパで1スティントが1周少なくても、距離が2倍のルマンでは、余程の事がない限り、1スティントの周回数は変わらない。しかし、スパで1スティントが2周少ないと、ルマンでは1スティントの周回数は1周少ない可能性が高い。
 これがスパが終了した時の状況だった。

 スパの際、電気系トラブルによってリタイヤしたNo.7トヨタが走り続けていたら、燃費のアドバンテージによって、レース終盤アウディを抜いたと信じる、呆れた日本人が居た。もし、燃費のアドバンテージによって抜かれそうであれば、アウディは1台のペースを落として、燃費をセーブしようとする。もちろん、トヨタの首脳陣が、このような20年前のテレビ解説を信じていた訳ではない。現在でも不可解なレギュレーションは、アウディに1.8mmも大きなリストリクターの使用を許しているのだ。速さに差があるのは当然だ。しかも、ターボによって過給されるため、アウディとトヨタの速さの際は、非常に大きかった。つまり、スパ終了時の段階で、トヨタにより大きな出力を与えることが、アウディとトヨタの速さを整える最良の方法と考えられていた。

Photo:Sports-Car Racing

 今年FIAは、性能調整(BOP)に熱心で、予選終了後であっても、性能調整を行うことを明言している。具体的に噂されていたBOPは、少なくともスパでトヨタの方が1周燃費が良いことが証明されたため、1周分の燃費に相当するリストリクターの拡大だった。
 ところが、FIAが発表した新たなBOPは、トヨタの燃料タンク容量を3リットルアップすることだった。
 FIAの新しいBOPの意味は、トヨタとアウディの速さの差は変わらない。しかし、トヨタの方が1スティント毎確実に1周多く周回出来ることを表している。まったく、常識的に考えると意味不明な内容だ。

 つまり、ルマンの予選でポールポジションを獲得するのはアウディ。決勝レースの際アウディは速さを見せつけるが、トヨタの燃料タンクが大きくなったため、アウディがペースを落とさない限り、アウディはトヨタより1周早くピットに入らなければならない。非常に乱暴な計算だが、アウディの方が3秒速いラップタイムで走ると仮定した場合、67周でトヨタを周回遅れとしてしまう。しかし、現在のところ、1スティント毎アウディは11周、トヨタは12周走ると考えられるため、約8時間後両者の差はリセットされる。24時間レースは8時間×3であるため、計算上、アウディとトヨタは同等のポテンシャルと考えられる。
 この乱暴な計算通りのレースが行われた場合、トヨタとアウディのどちらか一方が、@より速く走る、A壊れない、Bペースカー導入によるイレギュラーなピットイン等、何らかの違いが生じて、その際にアドバンテージを得た方が成功をつかむ。

 しかし、3リットル大きな燃料タンクとなることによって、当然ながら、トヨタの燃料補給の時間が長くなる。FIAのルールの骨子に従うのであれば、燃料タンクを3リットル大きくするのであれば、給油パイプのサイズも太くすべきだ。つまり、先の乱暴な計算通り、速さと燃費の差が釣り合っても、給油時間の差までは調整されていない。
 しかし、少なくとも2013年のルマンの場合、ウサギはアウディ、カメはトヨタと決定した。

Photo:AUDI

5月10日
SpecialEdition WECスパ-フランコルシャン 2013年のルマンに勝つ方程式は見出されたか?

Photo:Sports-Car Racing

●スパにルマンカーを投入したアウディとトヨタ
 今回のWECスパは、2013年のWEC第2戦であると共に、アウディとトヨタにとって、ルマンに向けた貴重なテストの場となった。アウディはNo.3がルマンカーだった。No.3 R18は、アウディ自身が“ロングテイル”と名乗って、事前にスパへの投入を公表したマシンだが、どうやら2013年のルマンバージョンであるらしい。ちなみに“ロングテイル”と言っても、30年前のポルシェ956LH同様、本当にリアのオーバーハングが延ばされている訳ではない。2004年ルールによってLMP1カーは、リアのオーバーハングの長さを750mmに制限されている。2003年まで1,000mm以上もあったリアオーバーハングが3/4以下に制限されたことから、少しでもリアのダウンフォースの減少を抑えるため、どのデザイナーも、基本的に制限いっぱいの750mm確保している。例外は、極端に長いホイールベースを求めた2009年のアウディR15だけと考えられている。従来のアウディR18の場合、リアボディそのものは750mmより短く、ボディ後方にリアウイングがオーバーハングして取り付けられて、その後端はリアホイール中心から750mmだった。スパに登場した“ロングテイル”は、ボディそのものが750mmまで延ばされて、ボディの上にリアウイングは取り付けられている。ちなみに“ロングテイル”は、ノーズ左右のフェンダーも大きく前方に延ばされている。

 トヨタは少々複雑で、No.8 TS030が2012年のスプリントバージョン、No.7は2013年のルマンバージョンだ。既に2013年バージョンは、2月に初期モデルがポールリカールで公開されている。ポールリカールで走ったマシンは、ルマンを意識して、リアウイングの左右に“リアウイングエクシテンション”を設けない、シンプルなリアウイングが取り付けられていた。ところが、今回のスパに現れた2013年TS030は、これまでスプリントバージョンの特徴と考えられてきた“リアウイングエクステンション”を備えていた。“リアウイングエクステンション”は、翼端板が片側2枚となるため、ドラッグが大きいことが指摘されている。我々は、ルマンバージョンをスパで走らせるための追加アイテムと思ったが、ルマンでも“リアウイングエクステンション”は使われるらしい。ちなみに、アウディのR18“ロングテイル”ルマンカーも“リアウイングエクステンション”を取り付けてスパに現れたが、こちらもルマンでも“リアウイングエクステンション”を装備した状態で走る見込みだ。トヨタだけでなくアウディも、ルマンカーらしく低い位置にリアウイングを取り付けているが、それに加えてトヨタは、片側2枚の翼端板の発生する大きなドラッグを削減するため、内側の翼端板を低く切り取っている。どれほどドラッグが減るか?不明だが、効果が高ければ、アウディも行うことだろう。

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●性能調整   取り敢えずトヨタの燃料補給パイプを1mmアップ  予選後の性能調整は行われず
 2013年のWECについてFIAは、随時性能調整を行う方針を明らかにしていた。予選が終了した後、決勝レースまでに性能調整を行う意向まで示している。ところが、WEC開幕戦シルバーストーンの際、トヨタの2013年バージョンが間に合わなかったため、実際に性能調整の対象のレースはスパが最初となった。金曜日FIAは、わざわざ記者会見を行って、この大胆な性能調整を発表している。

 2013年のLMP1のレギュレーションは、@同じ速さ、A1スティント毎同じ距離を走って、B1回毎の燃料補給の時間も同じとすることを目的として作られている。トヨタとアウディのワークスチームについて述べると、3.7リットルディーゼルターボエンジン+ハイブリッドのアウディの場合、エンジンに45.1mm×1のリストリクターを装着して、燃料タンクの容量は58リットルと決定された。3.4リットルガソリンNAエンジン+ハイブリッドのトヨタの場合、エンジンに43.3mm×1のリストリクターを装着して、燃料タンクの容量は73リットルだ。当初燃料給油パイプの太さは、どちらも25mmだった。燃料タンクの容量に15リットルの差があるにも関わらず、同じ25mmの給油パイプだった理由は、ディーゼル燃料の方がガソリンより粘性が大きいことを考慮したためだった。しかし、WEC開幕戦シルバーストーンの場合、アウディの方が燃料補給に要する時間が短いことが明らかとなったことから、WEC第2戦スパから、トヨタの燃料補給パイプを1mm太くして26mmとしている。スパの場合、トヨタとアウディの燃料補給の時間は同等と判断されたため、FIAも一安心だろう。

 スパの予選の際、ポールポジションのNo.1アウディと4位のNo.7トヨタのタイム差は約1秒だった。ルマンカー同士で比較しても、No.3アウディの方がNo.7トヨタより約0.7秒速かったことから、決勝レース前の性能調整が現実味を帯びた。しかし、もしトヨタのリストリクターを拡大した場合、パワーは向上しても、その分燃費が悪化するため、リストリクターを拡大する場合、同時に燃料タンクの容量と燃料補給パイプの太さも拡大しなければならない。少々複雑な調整が必要だ。第一1mm太くなった燃料補給パイプの効果自体、その段階では確認されてなかった。その結果スパの場合、予選終了後の性能調整は行われなかった。

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●燃費を捨てて大きな出力を求めたアウディ
 リストリクターのサイズによって、エンジンに取り入れる空気量が決まるため、リストリクターのサイズが同じであれば、どのような形式のエンジンであっても、同じ熱価の燃料を使用する場合、理論上発生可能なエネルギーは同じとなる。熱価の違う燃料とはガソリンとディーゼルのことだが、もちろんディーゼル燃料の方が熱価が大きく、より大きなエネルギーを発生可能だ。
 つまり、理論上ディーゼルエンジンの方が大きな出力を発生可能だ。このことは大学生でも理解出来るだろう。しかし、ディーゼル燃料とガソリンは大きく特性が異なり、ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと同じ方法で、大きなエネルギーを発生するのは難しい。そこでLMP1の場合大きな排気量とターボによる過給を許している。しかし、リストリクターの大きさまで拡大したことについては、これまでも度々疑問が提議されている。5.5リットルデーゼルの時代、ディーゼルエンジンは850馬力を発生していたと考えられている。その時代のガソリンエンジンは、せいぜい640馬力であるため、明らかに不公平だった。

 2011年以降ルールの見直しが図られ、昨年トヨタがガソリンエンジンによって登場したのに併せて、頻繁に性能調整が行われるようになった。しかし、それでも2013年の場合、アウディの3.7リットルディーゼルターボエンジンは45.1mm×1のリストリクターの使用が許されるのに対して、トヨタのガソリンNAエンジンは43.3mm×1のリストリクターの装着を義務つけられた。
 2012年までアウディは限界まで出力を追求してなかったようだ。大きな出力を発生した場合、引き替えとして、燃費が悪化するため、そこまで出力を追求することを躊躇ったかもしれない。2012年の場合アウディは、3.4リットルガソリンNAエンジンのトヨタより大きな出力とより良い燃費を武器として、シーズン後半までトヨタを寄せ付けなかった。
 ところが、シーズン後半トヨタが空力デザインを一新した改良モデルを投入して、アウディを上回る速さを発揮するようになった。アウディの3.7リットルデーゼルターボエンジンは、トヨタの3.4リットルガソリンNAエンジンより大きな出力を発生可能な大きなリストリクターの使用を許されていたため、リストリクターの余裕を活用して、より大きな出力を発生するか? それとも従来同様出力の発生を抑えて、良好な燃費を維持するか? 大きな選択を迫られた。
 その結果アウディは、2013年大きな出力を選択した。

 理論上43.3mm×1のリストリクターを取り付けたトヨタの3.4リットルガソリンNAエンジンよりも、45.1mm×1のリストリクターを取り付けたアウディの3.7リットルデーゼルターボエンジンは80馬力以上大きな出力を発生可能だ。実際に出力を重視したアウディの3.7リットルディーゼルターボエンジンが、トヨタの3.4リットルガソリンNAエンジンよりも80馬力も大きな出力を発生したのか? 誰にも判断出来ないが、ターボチャージャーによる過給による巨大なトルクを考慮すると、アウディは、事実上80馬力以上の大きなアドバンテージを持つことは間違いないだろう。

 もちろん、大きな出力と引き替えに、アウディは燃費が悪化している。昨年まで通常の4.5〜6km程度のサーキットの場合アウディは、1スティント毎、トヨタより約2周多く走ることが可能だった。ところが、約6kmのスパの決勝レースにおいてアウディは、最初のスティントでNo.1カーが、トヨタより2周も早くピットに入らなければならなかった。その後も、イエローコーションによる混乱を除くと、基本的にトヨタよりも1周以上早くピットに入らなければならなかった。
 つまり、昨年トヨタより2周多く走ったアウディは、今年トヨタより最大2周も早くピットに入らなければならない。

 2013年のアウディR18の速さは、トヨタにとって誤算だったかもしれない。しかし、この燃費の差によって、スパの場合、アウディは8回のピットストップが必要だが、トヨタは1回少ない7回のピットストップで走りきることが可能であるため、トヨタは、レースの最後で挽回することを狙っていたようだ。

 また、約6kmのスパで1周早くピットに入るか?2周早いか?は、ルマンにおいて、大きな差となる。ルマンのサルテサーキットは約13kmであるから、約6kmのスパで2周早くピットに入るのであれば、ルマンでは1周早くピットに入らなければならない。ところがスパで1周だけ早くピットに入るのであれば、ルマンでは1スティント毎の周回数が変わらない可能性が高い。どうやらアウディは、ルマンでのデメリットを最低限に抑えて、大きな出力を追求しているようだ。

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●エキゾーストによって空力性能の向上を狙ったアウディ エキゾースト・ブローイングの採用
 これまでも多くのエンジニアが、空力性能を向上させるため、エキゾーストから排出される排気ガスの力を活用しようとしている。しかし、@速さを特定出来ないこと、そして、無制限とした場合、A火災の危険があることから、現在のLMPカーの場合、大きく制限が加えられている。それでも、排気圧が大きいNAエンジンの多くは、リアカウル上面にエキゾーストを排出して、リアウイング下面の空気の流れを向上させると共に、床下のディフューザーからの空気の吸い出しを促進している。

 現在の空力性能は床下の空気の流れを無視することは出来ない。1970年代ロータスがベンチェリーカーを編み出した後、床下と路面の間でベンチェリー効果を巧妙に発生させることによって、大きな空力性能を獲得するようになった。
 数年前からF1GPにおいて、エキゾーストを床下後部に排出して、エキゾーストから流れ出る排気圧によって、床下の空気の流れを改善すると共にディフューザーからの空気の吸い出しを促進する研究が進められた。この情報をいち早く察知したFIAは、総てのカテゴリーにおいて、ディフューザーへのエキゾーストの排出を禁止した。しかし、エンジニア達は研究を続けていた。

 現在素晴らしい速さを披露するレッドブルF1GPカーは、「ブロウンデューザー」と呼ばれる、床下に排出したエキゾーストによって、床下の空気の流れを改善したディフューザーを採用している。2004年以降のLMPカーは、クルマの真ん中でダウンフォースを発生することを狙って、グループC時代のウイングカーと似た床下の使用を義務つけられている。つまり、床下の空気の流れを向上させることによって、LMPカーはF1GPカーよりも空力性能を向上することが可能だ。
 この方法は、正確には「エキゾースト・ブローイング」と呼ばれるが、現在LMPカーの一方の雄であるトヨタは、F1GP時代からTMGによってディフューザー内へエキゾーストを排出する研究を行っていた。しかし、現在のFIAのレギュレーションは、ディフューザー内へのエキゾーストの排出を禁止している。そのため、何らかのレギュレーションを回避する方法を見出さない限り、ディフューザー内へエキゾーストを排出することは不可能だ。

 ところが、今年登場したアウディR18は、ディフューザー内へエキゾーストを排出している。レギュレーションを回避する方法に興味が出てくるが、アウディの場合、ディフューザー後方のリアタイヤの内側付近、ディフューザー左右の端に後方に向けてエキゾーストを排出している。エキゾーストが排出される部分とディフューザー中央部分の間には仕切り板が設けられている。どうやら、この仕切り板によって、エキゾーストが排出される部分をディフューザーではない、と判定されているようだ。もちろん、この部分もディフューザーとして機能するため、エキゾーストの排出口としては分不相応な、広い幅が確保されている。

 ルールで許された大きなリストリクターを目一杯活用したエンジンと共に「エキゾースト・ブローイング」による良好な空力性能は、2013年のアウディR18の速さのポイントと考えられている。
 しかし、アウディR18はターボエンジンを使っているため、エキゾーストから排出される排気圧は決して大きくない。排気圧が大きいNAエンジンの方が「エキゾースト・ブローイング」に相応しい。スパでのトヨタの告白によると、どうやらF1GP時代だけでなく、つい最近も「エキゾースト・ブローイング」の研究を行っていたようだ。現在のトヨタは「エキゾースト・ブローイング」を採用していないが、アウディの様に、エキゾーストを排出する部分に仕切り板を設けることによって、ルールを回避することは可能だ。現在のところ、その幅も自由に設定出来る。スパでトヨタは、近い将来でなく、もしかしたら、ルマンで「エキゾースト・ブローイング」を採用して走ることを臭わす発言まで行っている。

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●ハイブリッドのアドバンテージは?
 アウディとトヨタは、昨年同様ハイブリッドシステムを組み合わせたLMP1カーを走らせる。電気モーターの出力は、トヨタが昨年同様200kw(約300馬力)、アウディが昨年より20%大きい150kw(約230馬力)だ。昨年トヨタが通称的な表現として、200kwを200馬力を表現したため、Sports-Car Racing Vol.20において、トヨタの電気モーターの出力を200馬力らしい、と記したが、これは間違いだ。現在ではトヨタも200kwと表現している。謹んでお詫びしたい。つまり、電気モーターが作動している状態であれば、トヨタは、アウディとの出力差を70馬力縮めることが出来る。エンジン出力の差を80馬力と仮定すると、電気モーターが作動している区間で、トヨタとアウディの出力差は、ほとんど無くなる。
 これを証明するように、スパの決勝レースのスタートの際、2台のトヨタはジャンプアップに成功している

 しかし、このハイブリッドシステムについて、少々不可解な噂が巻き起こっている。ポルシェがニュルブルクリンクに997GT3Rハイブリッドを登場させた時から、フライホイールを使ったハイブリッドシステムの信頼性は大いに疑問だった。実際ポルシェは「GTカーの横Gの場合問題ないが、フォーミュラでの信頼性は未知数」と発言している。フォーミュラカーの横Gで信頼性を確保出来ないのであれば、LMP1カーの場合も危ないと判断すべきだろう。

 昨年アウディR18がルマンで優勝した直後から、「アウディは決勝レース中フライホイールを停止していたらしい」との噂が流れている。ハイブリッドカーの場合、ピットロードにおいて電気モーターのみで400m走ることが義務つけられている。フライホイールを停止させたら、電力を蓄えることが出来ないため、電気モーターを動かすことは出来なくなってしまうことから、当方は当初この噂の信憑性を疑っていた。しかし、その後、ルマンの場合、ピットに入る周回のポルシェカーブを立ち上がった時点でフライホイールを作動させれば、ピットロード入り口のブレーキングにおいて、400m走るエネルギーを蓄えるのが可能であることが判明した。
 フライホイールは助手席に置かれているため、7万回転で回転するフライホイールが高速コーナーで脱落した場合のドライバーの安全を考慮すると、レーシングチームの判断は間違っていない。

 2012年の場合、ハイブリッド無しでも、アウディの方がトヨタよりも速く、しかも燃費が良いと判断されたことから、このような判断を行うことも可能だったのだろう。しかし、2013年の場合、ハイブリッドパワー抜きでは、トヨタの方が速いを考えられるため、アウディは何らかの作戦を実施しなければならない。もしかしたら、燃費の追求ではなくパワーの追求を重視した2013年のディーゼルターボエンジンは、フライホイール対策であったかもしれない。

 少々トヨタファンは安心したかもしれない。ところが、スパでトヨタのハイブリッドシシテムにトラブルが発生してしまった。どうやら深刻なトラブルではなく、センサーの誤作動、あるいはコネクターの接触不良によって、セイフティ回路が作動してハイブッドシステムが停止してしまったらしい。リアホイールにはエンジンと電気モーターが接続されており、回生ブレーキもリアで行われる。ハイブリッドシステムが停止したことによって、ブレーキがオーバーヒートしてしまった。33時間テストでも発生しなかった予想外のトラブルであるようだが、このようなイレギュラーなトラブルへ対処出来ないのであれば、ルマンでトヨタのハイブリッドカーが成功するチャンスはないだろう。

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5月2日
SpecialEdition SuperGTの海外戦略

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●韓国ヨンナムラウンド延期
 今年5月SuperGTは、韓国のヨンナムにおいてエキシビジョンレースを開催する予定だった。しかし、10日前GTAは韓国ラウンドの延期を決定したのはご存じだろう。延期の決定が下される前から、このレースは非常に不可解だった。F1GPを開催した際でも、レース開催直前までサーキットが完成せず、当然FIAによるサーキット公認審査のデッドラインを過ぎていたが、FIAはF1GP韓国ラウンド開催直前に完成したサーキットを認可して、無事韓国GPは開催された。富士スピードウェイが、日本GPを開催するために強いられた苦労を考えると、この事件自体非常に不可解だった。

 無事開催にこぎ着けたと言っても、ヨンナムはソウルや釜山から遠く離れた場所で、ほとんどホテルは存在しない。韓国料理の店はあっても、世界中からやって来る人間が、気やすく食べられるレストランも存在しなかった。
 そこで、ほとんどの関係者は、民宿かラブホテルに宿泊しなければならない。もちろん、遠く離れた国からやって来るスタッフ達は、手提げ鞄一つでやって来る訳ではない。民宿に宿泊した人間は幸せだっただろう。言葉は不自由だったかもしれないが、親切な韓国の人々の手厚いもてなしに感謝したかもしれない。しかし、ラブホテルへ宿泊を強いられた人間は、自分の荷物をホテルに預けることが出来ないことに気づいて、大変な苦労を強いられることとなった。
 しかも、ソウルに到着したドライバー等レース関係者がヨンナムへ移動するには、一般的にはバス路線を使用するしかなかった。そこで、チャーター便によって、ヨンナムのサーキット近くの貨物専用飛行場に着陸させることとなった。チャーター便そのものは、充分な数の乗客が居る場合経済的な交通手段だが、チャーターした飛行機を近くの飛行場に留め置かなければ、帰ることが出来ない。5日間の留め置き料金を加算すると、到底経済的な乗り物ではない。

 この怪しい実績は非常に不安だっただろうが、好意的にとらえたGTAは、ヨンナムでSuperGTを開催する契約をかわした。最も心配なスタッフの輸送と宿泊についてGTAは、韓国GPの状況を観察して、羽田からチャーター便を飛ばすツアーを企画した。食事については、サーキット内にケータリングサービスを実施する計画だった。残念ながら、ホテルだけは不可能だったようで、唯一の高級ホテルを除くと、ラブホテルや民宿、あるいは学生向け宿泊所を確保するのが精一杯だった。GTAの努力がうかがえるが、羽田からのチャーター便が到着するのは夜中の2時、帰りの便の出発も、同様に夜中だった。しかも、夜中に到着しながら、少々怪しげなホテルにチェックイン出来るのは、夕方と言うから、スタッフは疲労しきってしまう。最も困ったことは、GTAの責任ではないが、これらのツアーの費用が非常に高額であることだった。航空運賃は、通常の日本から韓国へ向かう場合の約3倍、宿泊料金は、たった1つの高級ホテルは1泊5万円、他の宿泊施設は3万円だった。最もお安いプランでも20万円程用意しなければならない。また、メディアについては、報道ビザと機材のカルネの問題も大きなハードルだった。ソウルや釜山に到着するのと違って、チャーター便で到着した場合、「観光」と言い逃れするのは不可能だろう。

 誰も3倍の費用を払って、疲労困憊したいとは思わないため、独自に妥当な価格のツアーを企画した強者も存在した。釜山から入国して、韓国の状況を考慮して、通訳と運転手付きのレンタカーで移動する現実的なツアーだった。もちろん、メディアだけでなく、様々なSuperGT関係者が、このツアーを歓迎した。と言うより、唯一の現実的な方法だった。
 このようにGTAだけでなく、様々な人々がSuperGT韓国を実現するため努力したが、彼らの努力は報われなかった。

 10日前GTAは、韓国の主催者による契約不履行を理由として、韓国ラウンドの延期を決定した。詳しくは述べないが、契約不履行とは、誰もが想像する内容と判断して間違いないだろう。
 韓国の主催者はGTAだけでなく日本人の信用を失った。契約不履行を理由としてSuperGTの開催が延期された事実は、日本だけでなくヨーロッパの人々の関心を集めている。なぜなら、数年前、同じ理由によって、韓国の自動車メーカーからWRC活動を任されたヨーロッパのコンストラクターが活動を取り止めたことがあったからだ。
 一応中止でなく延期であるが、今後GTAが、どのような対応を行うのか世界中の人々が注目している。

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●SuperGTマレーシアラウンドは2013年限り!?
 怪しい存在だった韓国ラウンドが未遂に終わりそうであるため、2013年に日本以外で行われるSuperGTはマレーシアのセパンだけとなった。既に10年以上の歴史があるレースであるため、SuperGTセパンは充分マレーシアに定着している。毎年セパンラウンドに併せて、日本からも、たくさんの観客が訪れる定番レースとなっている。関係者にとっても、一番人気のレースだろう。
 ところが、金の話しとなると、SuperGTセパンは、マレーシアとGTA双方にとって、理想とは言えなくなっている。

 マレーシアは裕福な新興国で、日本人とも非常に親しい付き合いを行っている。他のアジアの国々同様、日本への憧れも大きいようで、マレーシア中に日本のコンビニが存在して、クアラルンプール市内には、日本のデパート等販売店が彼方此方に存在する。我々日本人が、いきなりマレーシアへの転勤を命じられても、日本と変わらない生活を、しかも格安で行うことも可能だ。長い間イギリスと関係が深かった事もあって、整然とした町並みと治安の良さも、日本人に好かれる理由だろう。
 良いことずくめであるように思えるかもしれないが、総てのマレーシア人が裕福な訳ではなく、他の東南アジアの国と比べると、人口は多いとは言えない。そのため、日本の自動車メーカーは、マレーシアよりもタイやインドネシアでの販促に力を入れている。
 そのため、東南アジアで唯一の近代的なサーキットのセパンが存在して、モータースポーツの歴史が長いマレーシアと言っても、自動車メーカーにとっては、充分な販促予算を捻出し難い状況となっている。

 また、マレーシアの主催者のJPモータースポーツにとっても、これまでは、儲けを度外視して、大きな宣伝予算を計上したが、そろそろ、充分な利益を期待したい状況となっている。冷静に判断したJPモータースポーツは、自分達が大きな販促予算を計上しているにも関わらず、日本の自動車メーカーからの宣伝予算の多くが、自分達ではなく、GTAへ投下される事に気づいた。
 勘違いしないでもらいたいが、韓国と違って、日本人とマレーシア人は非常に良くコミュニケーションがとれている。お互いの存在も高く評価している。つまり、一緒に仕事を行う際の構造について、互いに問題を検討している。

 そのため、人気のイベントでありながら、2013年の開催が決定したのは、つい2ヶ月前のことだった。もちろん、マレーシアの人々は2014年もセパンでSuperGTが開催されるのを望んでいるし、日本人も6月にマレーシアへ行くのを楽しみにしている。しかし、2014年以降のセパンでのSuperGT開催については、今後の話し合いによって決定されるようだ。

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●タイでSuperGTを行う???
 現在日本以外で開催される唯一のマレーシアラウンドを失った場合、SuperGTはたんなる日本の国内選手権となってしまい、インターシリーズとしての内容を失ってしまうが、どうやらGTAは、マレーシアに代わってタイでのSuperGT開催を見込んでいるようだ。以前から、しばしばGTAが話題とした地域だが、残念ながら、パタヤビーチのサーキットが老朽化したことから、現在のタイには国際レースを開催出来るサーキットは存在しない。遙か遠い未来の話しかと思っていたら、先日やっとGTAは、パタヤビーチから東へ300km離れたブリアンに新たにサーキットを建築してSuperGTを開催する計画について述べた。
 バンコクから東に300kmも行ったらカンボジアに入ってしまいそうだが、もちろんタイ国内で、GTAは、サッカーチームのブリアン・ユナイテッドの母体となっている会社と話しを行っているようだ。

 突然現れたブリアンでのSuperGT開催だが、勘違いしてはならないのは、現在ブリアンにはサーキットは存在しない。この話しのベースとなっているのは、ブリアン・ユナイテッドの2万5,000人収容のホームスタジアムが、たった半年で建設されたことから、これからサーキットを建設を開始して、来年の5月か6月に完成することを前提としている。
 少々絵に描いた餅の様なプランだが、絶望的な韓国のヨンナムとは違って、大きなサッカースタジアムが存在するように、総てが近くではないようだが、ある程度の宿泊施設も存在する地域であるようだ。
 このサーキットが完成するのであれば、2014年にSuperGTを開催したい、との意向をGTAは表明した。
 6月にサーキットが完成するブリアンでSuperGTを開催するのは非常に冒険のように思えるが、2014年の日本以外でのSuperGT開催については、タイのブリアンの状況を優先して、ブリアンでの開催が不可能な場合、他での開催の交渉を行うとまで宣言している。

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4月10日
SpecialEdition本当にウサギのトヨタとカメのアウディ? トヨタはシルバーストーンへ2012年バージョンを投入

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●2013年のLMP1カー
 今週末シルバーストーンにおいて2013年のWECが開幕する。2013年のLMP1カーのルールは少々複雑だ。基本ルールは、ガソリンエンジンとディーゼルエンジン、さらにガソリンハイブリッドとディーゼルハイブリッドは総て車重900kgだ。リストリクターの大きさも3.4リットルのガソリンエンジンは43.3mm×1、3.7リットルのディーゼルエンジンは45.8mm×1だ。燃料タンクの容量も、ガソリンエンジンが75リットル(2012年73リットル)、ディーゼルエンジンは60リットル(2012年58リットル)だ。

 しかし、昨年トヨタとアウディのワークスチームが走らせたハイブリッドカーが、圧倒的な速さを披露したため、プライベートチームとワークスチームの間の性能調整が求められた。同時にガソリンエンジンとディーゼルエンジンの間の性能調整も行われ、取り敢えず、レギュレーションとは別にブルテンによって、リストリクター径と車重は発表された。
 簡単に記するが、トヨタに代表されるワークスチームのハイブリッドのガソリンNAエンジンのリストリクター径が基準となったようで43.3mm×1。アウディに代表される総ての3.7リットルのディーゼルターボエンジンは45.1mm×1。プライベートチームのノンハイブリッドの3.4リットルのNAガソリンは44.4mm×1(基本的な性能調整値では43.73mm×1)に拡大された。
 燃料タンクの容量もガソリンエンジンのプライベートチームに限って5リットル大きな80リットルタンクの使用が許される。
 トヨタに代表されるガソリンハイブリッドとアウディ等ディーゼルエンジンは、15kg重い915kgの車重が義務つけられ、HPDやレベリオン/トヨタの様なノンハイブリッドのNAガソリンエンジンは890kgまで軽量化が許される。

 元々批判が大きかったディーゼルターボエンジンの巨大なリストリクター径は縮小されたが、パワーが削減されて燃費が向上するにも関わらず、燃料タンクの容量はガソリンエンジン同様拡大されている。
 そのため、一般的に2013年のWECは、速いトヨタが先行して周回を重ねても、先に給油のためピットに入る。逆にアウディは速さではトヨタに負けるかもしれないが、トヨタより数周余計に走った後ピットに入ると考えられている。
 つまり、一般的に2013年のWECはウサギのトヨタとカメのアウディによるレースが展開されると考えられている。

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●レースウィークに入った後も性能調整を行う
 このような構図が見込まれる理由は、性能調整を見直した結果だが、実際にそうなるとは考えられない。
 巨大過ぎたリストリクターが縮小されたアウディのディーゼルエンジンは、一般的にはパワーが減ると考えられている。アウディ自身2013年バージョンの3.7リットルディーゼルターボエンジンは490馬力しか発生しないと発表している。本当に490馬力であるか?少々疑問だが、様々な開発によってアウディは速さを増しており、3週間前に行われたALMSセブリング12時間の場合、2012年より約2秒も速い予選タイムを記録している。それどころか、決勝レースでは2012年より約4秒も速いラップタイムで走行しており、圧倒的な戦闘力を披露して、LMP1カーにとって最後のセブリング12時間で優勝している。
 トヨタは、燃費を向上させるだけでなく、より一層速さを追求することによって成功を勝ち取ろうと考えているようだ。と言うより、それしかアウディに勝つ方法はないだろう。トヨタもまた、アウディと同程度の割合で速さを向上させている。しかし、速さのアップ率が同じである場合、リストリクターが小さくなって燃費の向上が見込めるアウディの方が有利となる可能性がある。

 また、性能調整に自信を深めたFIAは、レースウィークに入った後の性能調整についても意欲を見せている。つまり、予選で速さを披露した場合、決勝レースの前にリストリクターの縮小やハンデウエイトの搭載を要求される可能性がある。
 もちろん、決勝レースにおいて、明らかに1スティントあたりの周回数に差があると判断された場合、次のレースにおいて、燃料タンクの容量を変更することとなるだろう。ALMSセブリングに参加した際アウディは、2リットル小さい58リットルの燃料タンクの使用を義務つけられている。58リットルは2012年と同じ容量だが、WEC開幕戦シルバーストンでも、ディーゼルのアウディは58リットル、ガソリンのトヨタは68リットルタンクを義務つけられる可能性が高い。
 アウディとトヨタは、共にルマンで勝つことを最優先としてプログラムを進めている。つまり、その前の2つのレースの結果によって、課せられる性能調整を見越して、ルマンで最良の性能調整値を獲得することが、成功への第一歩と考えられる。

3月19日
SpecialEdition 2013年のSuper GT

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●FIA GT3カーは2013年のFIAルールが基本 開幕戦はGTA独自のBOPによってレースを実施
 現在GT300の主流となっているFIA GT3カーは、2013年のSuperGTに参加する場合、2013年のFIAのルールとBOPを基本とすることが発表された。事実上昨年と基本的に変わらないと考えて良いだろう。しかし、困ったことに、2月に行われる予定だったFIAのBOPテストが、雪によって不可能となってしまった。現在のところ、統一したカタチでFIAのBOPテストが行われる可能性は少ないため、FIA自身、暫定的なBOPルールを公表する方針だ。しかし、このBOPは、幾つかのGT3レースが開催された後発表されると考えられている。今年、2013年バージョンのGT3カーが走るレースシリーズの中で、最も早く開幕するのはSuperGTだ。そこでGTAは、独自のBOPを発表して、岡山で行われる開幕戦を行うことを決定した。

 GTAによる独自のBOPは、4月の第1週に発表されるが、開幕戦の数日前にルールを発表されても、レーシングチームは対応するのが難しいため、開幕戦の約2週間前に開幕戦のBOPを公表されると考えられている。ルールとして承認を得ると4月第1週をなるのだろう。それでも対応出来ないレーシングチームが存在する可能性があるが、現在のところ、唯一の解決策だろう。

 FIA GT3カーは、性能調整を前提として作られている。そのため、元々クルマに備えられているアイテムであっても、使用を認められない場合がある。これらの使用を認められないアイテムの代表は、フロントフェンダー上のスリットだった。LMPカーでは常識的なアイテムだが、もちろん、フロントタイヤハウス内の空気を吸い出して、揚力を現象する効果を持つ。2011年以降メルセデスSLS AMG GT3に取り付けられ、2012年以降アウディR8ウルトラにも設けられていた。ところが、2012年まで、フロントフェンダー上のスリットの使用は認められなかったことから、メルセデスとアウディは、スリット上にカバーを被せていた。
 ところが、2013年のポルシェ997GT3Rのフロントフェンダー上には、カバー無しのスリットが設けられている。

 ポルシェ997GT3Rのフロントフェンダー上のスリットは、元々2013年の難問の1つだったが、FIAのBOPテストが実現出来なかったことから、昨年使用を拒否されたメルセデスとアウディを含めて、今後使用の可否が問われることとなるだろう。
 GTAが暫定的なBOPを設けて開幕戦を行った後、正式なルールの内容が気になる項目の代表だ。

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●GT300マザーシャシー構想
 以前から検討されていたGT300のマザーシャシー構想は、いよいよ今年実現する見込みだ。マザーシャシー構想は、当初FRとミッドシップの両方のシャシーレイアウトが可能な統一モノコックを使って、それに様々なエンジンとボディを組み合わせようというプランだ。1つのモノコックによって、様々なカタチだけでなく、違うシャシーレイアウトが可能となるが、シャシーだけでなくボディも、ロードカーと違って、被せられるだけの事実上のカバーに過ぎない。つまり、現代版シルエットフォーミュラだ。
 現在のGT300マシンの中で最も違い存在は、aprプリウスだ。aprの場合、10年前に開発したMRS以降、カローラ、そして現在のプリウスも、基本的に同じ前後のフレームとサスペンションを使って、真ん中のフレームだけが、新たに作られている。
 GT300マザーシャシー構想は、真ん中のフレームを共通として、それに組み合わせる前後のフレームを新しく作るプランだ。

 FRとミッドシップに同じモノコックを使うと、FRの場合プロペラシャフトが通るセンタートンネルが必要であるため、実際には、少々辻褄が合わなくなってしまう。センタートンネル付きのモノコックをミッドシップで使うとしても、ミッドシップの場合、モノコックの後ろにエンジンが取り付けられるため、クラッシュした際、エンジンがモノコックを直撃してしまう。モノコックの後方に燃料タンクを設けるのであれば、通常のミッドシップ同様モノコック後方にも充分な剛性を実現しなければならない。
 このように、既にDTMとGT500の統一モノコックで発生したのと同様の問題が存在するため、もしGT300マザーシャシー構想が実現しても、実際にマザーシャシーを使ってGT300マシンを開発するコンストラクターは少ないと考えられていた。
 既にaprプリウスと無限CRZが存在するため、ミッドシップJAF-GT300マシンの開発を望むレーシングチームは、aprか無限から、パーツを購入すれば良い。わざわざ、センタートンネル付きのモノコックを使ってミッドシップカーを作る理由はない。

 ここら辺の現実的な問題が存在するため、GTAはマザーシャシーを使ってFRのJAF-GT300マシンを作ろうとしている。日曜日GTAは、具体的に、トヨタFT86のボディを組み合わせたFRのJAF-GT300マシンを、今年中に完成させと発表した。
 少々疑問を感じた方々が居ると思う。この今年中に完成するマザーシャシー構想1号車は、具体的に、誰が開発と製作資金を負担して作られるのか?現在のところ、明らかとなっていない。GTA自身が、マシンを開発する資金を捻出出来るとは考えられないため、誰かがマシンを購入するか? そうでなければ、資金を負担するスポンサーを見つけなければならない。

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●2014年のGT500マシンは、3車そろって、8月の鈴鹿1000kmの金曜日に公開シェイクダウン
 2014年にDTMとの提携を控えたGT500については、DTM側より、GT500と同じ2リットルターボエンジンの使用を打診されている。しかし、DTM側も、2012年に新しいルールに移行した後、当初同じマシンの3年間の使用を義務つけたにも関わらず、たった2年で2014年から、GT500と同じモノコックに切り替え、その後エンジンも変更するとなると、メーカー自身は問題なくても、実際にクルマを走らせるレーシングチームの大きな負担が予想される。
 現在DTMは、北アメリカでのシリーズの実現についても計画を進めているため、ITR自身はルールの統一を優先したいようだが、クルマを走らせているレーシングチームの立場となれば、当初ルールで約束した3年間ルールが1年目で破られる等、今後DTMルールが世界展開する上で、大きな問題となりそうな課題が次々と発生する状況となっている。
 GTAにとって、DTMが2リットルターボエンジンを使用するのが、2016年の前か後か、気になる状況だろう。

 当初DTMと同じモノコックを使用するハズだったGT500は、ホンダがミッドシップカーであるため、フロントエンジンでもミッドシップでも可能なモノコックを開発して使用することとなった。どこまで実現するのか?確認出来ないが、2014年にはDTMも同じモノコックを使用する方針だ。メーカー主導のカテゴリーと言うより、現実的には話し合いに参加しているメーカーでなければ参加出来ないカテゴリーであるため、ここら辺が強みのカテゴリーだ。
 このフロントエンジンだけでなくミッドシップでも使用可能なモノコックは5月に完成する。その後各メーカーにデリバリーされるが、8月には3メーカーが揃ってテストを開始する予定だ。現在GTAは、鈴鹿1000kmの週の金曜日(8月15日)に3メーカー揃って公開テストを実施する計画を立てている。と言っても、3つのメーカーは、事前にテストを行うことを求めているし、現在のところGTAは鈴鹿サーキットへ何も連絡していないため、その方針と考えるべきだろう。

 2014年のGT500は、ニッサンが、現在と同じGTRをベースとして、ホンダがNSXをベースとすることだけが判明している。現在のところ、GTAでさえ、トヨタが何をベースとして2014年のGT500マシンを作るのか?判らない状況であるようだ。
 現在のGT500は、完全にGT300に人気の座を奪われた状態であるため、人気を復活させる内容であることが重要だが、残念ながら、この内容だけでは、人気のGT300に太刀打ち出来るとは思えない。

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●韓国でのSuperGTが実現するために必要なこと
 今年GTAは、5月に韓国のヨンナムでSuperGTのエキシビジョンレースを実施する。当初日本から陸路トランスポーターによって機材を運び込むことを計画していたが、最終的に陸路韓国へ向かうトラックは、メーカーのサポートカーの数台(5から8台)だけと考えられている。ほとんどの機材は、マレーシア遠征同様コンテナによって運ばれる。
 また、ヨンナムは陸の孤島であることから、以前から、ホテルや交通機関等インフラの問題が指摘されていた。そこでSuperGTは、近くの飛行場までチャーター便を2便飛ばして、チーム関係者やメディアを運ぶ一方、ホテルを借り切って、ホテルとサーキットの往復には、チャーターしたバスを運行する。食事については、サーキット内で昼と夜の食事を提供することも決定した。

 既にGT500とGT300のシード権を持つ各15台のチームの参加を発表している。マシンの開発をメーカーが行っているだけでなく、GT500のレーシングチームの大多数は、何らかのカタチで活動にメーカーが関与している。そのため、ヨンナムでのエキシビジョンレースについて、GT500チームの参加について問題はないようだ。しかし、メーカーの関与が少ないGT300の場合、ほとんどのレーシングチームが、韓国遠征を計画してなかったようだ。

 岡山テストの際、韓国遠征についての説明会が開催され、GTAは「シードチームにとって、韓国遠征は、自由参加ではなく、義務である」と宣言して、大多数のGT300チームから反発を受ける事態に陥った。韓国の主催者は、遠征費用の一部を提供するだけで、遠征費用の多くはレーシングチームの負担となるため、韓国遠征を辞退したいレーシングチームは少なくない。しかし、もし、韓国遠征を辞退した場合、何らかのペナルティを課すとGTAは発言している。
 困ったことに、韓国へ持ち込む機材のカルネの申告が2週間後であるため、じっくりと話し合う時間も無い。
 GTAは説明しなかったが、韓国の場合、メディアへビザの取得が義務つけられるため、カルネとビザの点を考慮すると、多くのメディアは、行きたくても、韓国へ行くことは出来ないだろう。ビザ無しで韓国へ行くメディアも現れることだろう。

 現在のところ、GTAとレーシングチームの話し合いは合意に達していない。このような問題が発生しないよう、本来GTエントラント協会が存在しているハズだが、GTエントラント協会から、この点についての説明はなかった。現在GTエントラント協会はGTAと共に沖縄の公道レースを計画しているが、今回の問題を解決出来ない場合、沖縄でも同様の問題が発生する可能性が高い。

 韓国で行われるSuperGTへは、日本のレーシングチームだけでなく、韓国のレーシングチームの参加が望まれる。現在ヒュンダイジェネシスをベースとしたGTマシンがGT300への参加を計画しているが、少々速さが足りないようだ。そこで初音ミクBMWのメンテナンスを請け負っているファインが、マシンの開発に協力しているようだ。しかし、少々時間が足りないかもしれない。

 また、ヨンナムのSuperGTと同じ日に、ニュルブルクリンク24時間レースが開催されているため、レーシングチームによっては、ドライバーが居ないチームが少なくないらしい。そこで、2人ではなく1人のドライバーだけでの参加もGTAは認めた。

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●セパンとの開催契約締結 タイでのSuperGTシリーズ開催
 韓国へ行ったSuperGTのコンテナは、日本へ戻らず、そのままマレーシアへ送られる。セパンで行われるSuperGTは人気のイベントだが、これまでセパンの主催者であるJPモータースポーツとの間で正式な開催契約は結ばれてなかった。1月末GTAの板東社長自身がマレーシアへ行き、今年の開催契約を締結した。しかし、複数年契約ではなく、2013年の1年だけの契約となった。セパンのSuperGTは、JPモータースポーツが主催者となった後人気のイベントに成長したが、JPモータースポーツとGTAの双方にとっても、他の選択肢があるらしく、最終的に1年契約となった。

 GTAにとって、他の選択肢と考えられるのは、2014年からタイでSuperGTタイシリーズが開催されることだ。2014年春までに新たなサーキットの完成も見込まれるため、GTAは、マレーシアでなくタイでの開催を本気で検討しているようだ。

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●アジアンルマンシリーズ富士は、SuperGTのポイントも与えられる しかし、同日鈴鹿でスーパー耐久とWTCCが開催
 9月に開催されるアジアンルマンシリーズ富士スピードウェイは、計画通りGT300マシンが参加した場合、SuperGTのポイントも与えられることとなった。通常のSuperGTと違って、優勝しても8ポイントが与えられるだけだが、タイトル争いを行うようなトップチームの総てが、アジアンルマンシリーズ富士へ参加ことだろう。
 GT300チームがアジアンルマンシリーズ富士に参加する場合、2013年のアジアンルマンシリーズ自体はミシュランタイヤのワンメイクだが、SuperGT同様、自身が契約しているタイヤの使用が可能だ。また、GT300チームは、SuperGTのウエイトハンデの搭載義務が無い。しかし、アジアンルマンシリーズで獲得したポイントに応じたウエイトハンデが、残りのシリーズでは課せられる。

 なかなかエントリーが集まらないアジアンルマンシリーズだが、少なくとも富士スピードウェイで行われるレースだけは、たくさんのエントリーで賑わうこととなるだろう。しかし、アジアンルマンシリーズとGTAは、大きな問題に直面することとなった。
 困ったことに、アジアンルマンシリーズ富士と同じ9月22日、鈴鹿サーキットでWTCCとスーパー耐久が開催されることとなってしまった。WTCCとは関係ない話しだが、GT300とスーパー耐久には、名前は違う場合が多いだろうが、事実上同じチームも参加している。片方のシリーズは、黒子としてメンテナンスを請け負っているチームも存在する。多数のドライバーも両方のシリーズに参加している。そのため、当初の目論みと違って、たくさんのレーシングチームが、参加を確定出来ない状況に陥っている。

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*注:Sports-Car Racing Vol.21においてGT3カーの特集記事が掲載されます。

3月6日
SpecialEdition 2013年のGT300戦力分布図

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●2013年のGT300は2012年より2秒速い
 1月末ゲイナーチームのメルセデスSLS AMGが岡山で走った時、その場に居合わせた総ての人間が、「大変な事が起こった」と思った。ゲイナーチームの面々も同様だっただろう。なぜなら、非常にコンディションが良かったと言っても、ゲイナーメルセデスは、昨年のGT300より約2秒速いラップタイムを記録したからだ。
 SuperGTの場合、速さに応じて、性能調整を行うことによって、拮抗したレースを実現しているため、早過ぎる場合、何らかのハンデを課せられる可能性がある。1月末の時点で本格的なテストを行っているGT300チームは、他に存在しなかったため、ライバル達と比べて、このラップタイムが本当に速いか?誰にも判らなかった。しかし、無駄な波風を立てる理由はないため、取り敢えず、ラップタイムの公表は取り止めた。
 ちなみに、昨年のSuperGTでもメルセデスSLS AMG GT3は走っている。2012年モデルから2013年モデルへの変更点も僅かであるため、同じクルマでも、トップチームが走らせると、こんなにも速いのか! と誰もが驚いた。

 その後、幾つかのチームが、ニューマシンのテストを開始した。そして先週鈴鹿において、今季初めて、トップチーム同士の合同テストが実現した。鈴鹿にやって来たGT300チームは、無限とARTAの2台のホンダCRZ、Cars TokaiのマクラーレンMP4-12C GT3、NDDPのGTR GT3、そしてゲイナーチームのメルセデスSLS AMG GT3だ。無限とARTAのホンダCRZがJAF-GT300で、マクラーレン、GTR、メルセデスはFIA GT3カーだ。まだ、JAFやGTAだけでなく、FIA自身が今年のレギュレーションを発表していない。そのため、特にFIA GT3カーは、今後発表されるルールと合致しない内容があったかもしれない。しかし、これまで謎に包まれていた、今年のGT300の戦力分布図を、推測出来る絶好の機会となった。
 これらのGT300マシンが、同時に走ったのは2月28日だった。ゲイナーメルセデス、NDDP GTR、マクラーレンは翌3月1日も走っている。残念ながら、1日午後雨が降り出したため、ドライコンディションだった28日、そして1日午前中、大まかながらも、速さを比較することが可能となった。

 テストであるから、絶対的なデータは公表しない。ラップタイムは、ゲイナーメルセデスとマクラーレンが1分58秒台半ば、NDDP GTRが1分59秒台前半、無限CRZが1分59秒台後半、ARTA CRZは2分00秒台半ばだった。
 CRZ勢が少々遅れているように思えるかもしれないが、無限CRZは今回の鈴鹿テストが今年の初テストで、ARTA CRZは、もてぎでシェイクダウンした直後とのことであるから、3台のFIA GT3カーとCRZ勢のラップタイムは大きく変わらないと言えるだろう。
 昨年の鈴鹿1000kmの予選の際GT300のポールポジションは、無限CRZが記録した2分02秒130だ。現在このタイムが鈴鹿のコースレコードだ。つまり、今年のGT300マシンは、既にコースレコードより3秒も速いタイムで走っている。いくら暑い8月と涼しい3月の差があっても、驚異的なレベルアップだ。大メーカーが精力的に開発しているGT500の場合、昨年の8月より約2秒のタイムアップだ。優秀なレーシングチームの努力によって、GT300の進化のスピードが非常に速いことが判る。

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●速さには大きな違いが!
 2台のCRZはブリヂストン、NDDP GTRとマクラーレンがヨコハマ、ゲイナーメルセデスがダンロップタイヤを履くため、開発の度合いだけでなく、タイヤの違いを考慮すると、2013年のGT300は、JAF-GT300でもFIA GT3でも、比較的速さが整っているように思える。しかし、これは、モニターに提示されるラップタイムについてだけ言える話しだ。
 問題は最高速度に大きな差があることだ。空力セッティング等チームのテスト項目に違いがあるため、絶対的な速度は公表しないが、CRZ勢はバックストレートにおいて238〜244km/h程度、NDDP GTRが242〜245km/h程度、ゲイナーメルセデスが244〜248km/h程度であるのに対して、マクラーレンは余裕で260km/hオーバーの最高速度を記録している。一緒に走行していたGT500マシンの最高速度が255〜262km/h程度であるため、GT500と同じか、GT500を超える最高速度を発揮している。

 ゲイナーメルセデスとマクラーレンは、ほとんど同じ1分58秒台半ばのラップタイムを記録したが、最高速度はマクラーレンの方が12km/h以上も速い。マクラーレンは走り出したばかりであることから、今後セッティングが進んだ場合、特に長いストレートが存在する富士スピードウェイで、マクラーレンはとんでも無い速さを発揮する可能性があるだろう。
 逆にラップタイムは大きく変わらなくても、CRZやGTRは、特に決勝レースで辛い闘いを強いられるかもしれない。

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●2013年のFIA GT3カーのルールは未発表! BMWはトランスアクスルの採用を延期、ポルシェはワイドボディを使用
 FIAは2月4日から8日にフランスのクレルモンフェランにあるミシュランのテストコースを使って、2013年のGT3カーのBOPテストを行う予定だった。特に2013年の場合、ロードカーから大きく変更したクルマが何台か存在するため、非常に重要なテストと考えられていた。ロードカーから大きく変更したクルマとは、ポルシェ、BMW、カマロ、GTR、ベントレーの5台だ。
 ポルシェは、2年前に997型から991型にモデルチェンジしているが、何と既にロードカーが存在しない997型をベースとして、新たに2013年バージョンの997GT3Rを作ってきた。2013年の997GT3Rは、2012年のGTEバージョンの997GT3RSRのパーツを使って、幅2mのワイドボディを持ち、同様に997GT3RSRのフロントサスペンションを使って、大きなフロントタイヤを履く。
 BMWは、トランスミッションをリアに移動してトランスアクスルとしたZ4 GT3を用意した。
 レイターが作ったカマロは、ロードカーとまったく違うプッシュロッドサスペンションを装備していた。
 ベントレーについては判らない。しかし、元々車重が2.1トンもあるため、大々的な改造が盛り込まれているのだろう。
 これらの4台と比べれば、控えめな内容に思えるが、GTRはボディ、エンジン、そしてギア比を変更している。

 GT3カーとはロードカーをベースとして、ギア比の変更すら許されない、あくまでもロードカーの発展型と判断している方々にとっては、少々違和感を感じる出来事であるかもしれない。
 日本のSuperGTがそうであるように、速さを整えるために行われたプランであるらしいが、当然ながら、これらのクルマは、議論の中心だった。そこでクレルモンフェランのBOPテストの中心と考えられていた。
 残念ながら、2月初めクレルモンフェランは雪に見舞われた。そのため、BOPテストは、ほとんど行うことが出来なかった。

 その結果、FIAは2013年のGT3カーのBOPを決定出来なくなってしまった。日本のSuperGTやドイツのADAC GTマスターズ等ある程度独自にルールを運用しているシリーズも、FIAのGT3カーのBOPを基本としてルールを決めているため、現在、世界中のGT3カーが走るレースシリーズは、2013年のルールを発表出来ない状況に陥っている。
 先週鈴鹿で走ったマクラーレンの異様な速さも、BOPが発表されてないため、当然のことであるかもしれない。

 既にBMWは、トランスアクスルの採用の先送りを発表している。ドイツ独自のルールで行われるVLNシリーズではトランスアクスルカーが走るらしい。現在GT3カーのカスタマーチームに対して、5月20日のニュルブルクリンク24時間が終了した後トランスアクスルカーへのアップデイトパーツをデリバリーすることをアナウンスしている。
 SuperGTは、この時期韓国のヨンナムでエキシビジョンレースが行われ、そのままマレーシアへ遠征する予定となっている。マレーシアから日本へ戻ると、2週間後にSUGOのレースが控えているため、SuperGTでZ4 GT3を走らせるStudieは、韓国へ行くか? 日本でアップデイトするか? 困った課題を突きつけられてしまった。
 第一アップデイトパーツはタダではない。約1,000万円の投資が必要だ。シーズン半ばからしか使えないのであれば、レーシングチームにとっては、例え優秀なアイテムであっても、非常に費用対効果が低い選択となってしまう。

 当初ポルシェは、2012年に売れ残った3台の997GT3Rをアップデイトして販売すると思われていた。しかし、RSRのパーツを活用した大々的な改造であることを宣伝した結果、何と11台の新車の997GT3Rがデリバリーされた。数が合わないが、997GT3Rはカレラカップカーと同じホワイトボディを使うため、カレラカップカーのホワイトボディを使って作られたクルマもあるだろう。
 ポルシェは、FIAのBOPがどうであっても、幅2mの2013年バージョンの997GT3Rの使用計画に変更はないようだ。もちろん、2010年以降の997GT3Rからのアップデイトが可能で、世界中で数十台のアップデイトカーが作られると予想される。
 既に世界中に11台もデリバリーしただけでなく、アップデイトカーの存在を考えると、参加を拒否することは出来ない。
 日本でもタイサンが新車の997GT3Rを購入しただけでなく、ディレクションとKTRがアップデイトカーを走らせる

  現在のところ、世界で最も早く開幕するメジャーなGTシリーズはSuperGTだ。SuperGTに続いてADAC GTマスターズが開幕するが、この2つのGTシリーズは、どのBOPを採用して、レースを行うこととなるのだろうか?
 あるいは、来週岡山で行われるSuperGT公式テストにおいて、BOPを決定するのだろうか? しかし、テストで遅く走れば、実際のレースでは、有利なBOPを獲得出来るかもしれない。それでは、本当の性能調整は不可能だ。
 今年のWECは、レースウィークに入った後、例えば予選での速さによっても性能調整を行う方針だ。現在の状況を考えると、WECの様な、大胆な性能調整を実行する勇気が必要であるかもしれない。

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*注:Sports-Car Racing Vol.21においてGT3カーの特集記事が掲載されます。

2月21日
SpecialEdition カメさんに勝つため トヨタが編み出した勝利の方程式

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 2週間前トヨタは2013年バージョンのTS030のシェイクダウンテストを行った。今週ポールリカールで行われるテストは、2013年バージョンのTS030にとって2回目のテストであって、もちろん、開発途上のマシンだ。これから行われる開発によって、様々な部分に手を加えられることとなる。昨年正式発表前にトヨタのLMPカーは盗撮されたこともあって、当初トヨタは、走行テストを公開するのを躊躇った。しかし、中国の旧正月明けの混雑した飛行機によってマルセイユまで駆けつけた日本人を哀れに思ったようで、トヨタは、走行テスト初日に限って、条件付きながら、取材を認めてくれた。
 もちろん、走行テストの取材を交渉したメディアだけでなく、走行テストの取材を申し込んでいる人間が居ることを知らずに、早々とマルセイユを後にしたメディアも少なくない。あくまでも、トヨタの好意によって許された、限定的な取材と判断してもらいたい。
 走行テストの取材を許可して頂いたトヨタとTMGの方々のご好意に対して、感謝の意を表明いたします。

●最良の空力性能のために選ばれたスポーツカーノーズ
 2013年バージョンのTS030は、昨年登場したTS030を進化させたものだ。2012年と違って、最初から電気モーターはリアに設置することが決まったため、フロント部分に電気モーターを設置する場合避けられない、ノーズ床下の形状についても、最良の空力性能を発揮出来る様、慎重に空力開発が行うことが可能となった。この部分はモノコックの一部だ。つまり、2013年バージョンのTS030は、2012年バージョンのTS030とは違う、完全に新しく開発されたモノコックを持っている。

 ノーズ床下の空力開発を自由に行うことが可能となって、新たにモノコックのデザインが行われたことによって、より少ないドラッグで、より大きなダウンフォースを生み出すことが出来るよう、精力的に空力開発は行われている。
 ポールリカールに持ち込まれたTS030は、後に述べる理由によってルマンバージョンだった。そのため、昨年話題となった、本来のリアウイングの両側に“ホイールアーチ”と呼ばれるエクストラリアウイングは設けられていない。
 また、昨年登場したTS030の場合、最初に走ったテストバージョンはスポーツカーノーズだった。その後姿を現したレースバージョンは、ノーズ左右に大きな開口部を設けたフォーミュラノーズだった。一般的にフォーミュラノーズの場合、大きな空気の圧力を取り入れることが可能で、ノーズ床下のディフューザーの効果を高めることが出来るだけでなく、コクピット左右のサイドポンツーン内にレイアウトされるラジエターを効率良く冷やすことも可能となるため、結果として前面投影面積を小さく出来る。

 ところが、クルマの中で最も空気の圧力が大きいノーズ部分に大きな開口部を設けるため、どうしてもドラッグが大きくなってしまう。もし、ノーズ左右に大きな開口部を設けなくても、ノーズの床下で大きな空力性能を発揮出来るのであれば、ノーズ左右の開口部を塞ぎたいと考えるデザイナーは少なくない。TMGのエンジニア達も同様の考えを持っていたようで、2013年バージョンのTS030はスポーツカーノーズとするのを前提として空力開発が行われている。
 今回ポールリカールに持ち込まれたシャシーは、ルマンスペックであったことから、もちろんスポーツカーノーズを備えていた。しかし、今後登場するハイダウンフォーススペックもスポーツカーノーズとなる可能性が高い。
 ここら辺の状況については、現在開発中のマシンであるため、今後の開発次第で、ハイダウンフォーススペックは、スポーツカーノーズでなくフォーミュラノーズとなる可能性もあるだろう。現在のところ、誰にも判らない。

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●リアウイングエクステンション?
 2009年FIAは、クルマの速さを削減する目的で、リアウイングの幅を1.6mに制限した。そして総てのLMPカーは、リアのダウンフォースの減少に苦しむようになった。リアウイングの失速を覚悟して、リアウイングに大きな迎え角が設けられる様になったことから、1.6mリアウイングを取り付けたLMPカーは非常にナーバスな操縦性に苦しむようになった。その結果、高速でのスピンを防ぐため、2011年にエンジンカウルの上に垂直尾翼の設置が、2012年には4つのホイールアーチ上に開口部の設置が義務付けられた、リアのダウンフォースの確保は、空力開発の重要なテーマとなっている。
 前後の4つのホイールアーチ上に開口部の設置を義務付けたルールの目的は、床下に溜まった空気を吸い出して、クルマが空を飛ぶことを防止することだ。特にリアのホイールアーチの効果は大きいだろう。つまり、この4つのホイールアーチ上に開口部を設けるルールが登場した時から、FIAは、リアウイングの能力を復活させる方法を検討していた様に思える。

 昨年8月に行われたWECシルバーストーンから、TS030のリアウイングの左右に、リアウイングに見えるアイテムが追加されている。シルバーストーンの際WECは、このアイテムを“ホイールアーチ”と公表している。もちろん、その目的は、1.6mのリアウイングの左右に、合法的にリアウイングを追加することだろう。
 “ホイールアーチ”が登場した時から、トヨタの暴挙ではなく、FIAが、リアのダウンフォースを増強するための意図が見え隠れしていた。トヨタとFIAのどちらが編み出した名前であるか?判らないが、そうして“ホイールアーチ”は登場した。

 もちろん、本来のリアウイングの両側にウイング状のアイテムを追加するため、翼端板が4枚となる等、ドラッグの増大も無視出来ない。そのため、2012年に“ホイールアーチ”を使ったのはトヨタだけだった。
 しかし、既にFIAは“ホイールアーチ”合法化に向けて動いており、2013年、疑問を集めた“ホイールアーチ”の名前ではなく、“リアウイングエクステンション”と称して、FIAは正式に1.6mリアウイング左右の追加ウイングを認めた。
 既にアウディの2013年バージョンのR18は“リアウイングエクステンション”を取り付けてテストを行っている。
 間に合うのであれば、HPD勢とレベリオンローラも、“リアウイングエクステンション”を使うことだろう。

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●エンジンパワーは変わらず  電気モーターの出力も現状維持      なめらかに作用するブレーキ
 TS030には、非常にコンパクトな3.4リットルV8ガソリンNAエンジンが搭載されている。重さは100kg以下で530馬力を発生する非常に優秀なNAガソリンエンジンだ。このスペックだけでも、非常に優秀だ。2012年ホンダは、ルマンまで570馬力、その後600馬力とアナウンスしているため、トヨタの発表値は非常に控えめだ。2013年のTS030の3.4リットルV8エンジンは、最高出力は2013年と同等に抑えて、中間トルクを増強するため排気システムを変更している。もちろん、信頼性の向上も大きなテーマとなっている。

 昨年から現在に至るまでトヨタは、TS030のリアに設置された電気モーターの出力を発表していない。昨年関係者から200馬力とのコメントを得たため、当方はSports-Car Racing Vol.20において150kwと記載している。150kwは、アウディと同じ出力であるため、何らかの話し合いが行われた?と当方は考えていたほどだ。その後200馬力ではなく200kwであるらしいことが判明した。200kwとは約300馬力であるから、アウディの1.5倍で、ハイブリッド作動時のTS030の速さも容易に納得出来る。

 2013年バージョンでも200kwと推測される電気モーターの出力は変わらない。しかし、より確実な作動を求めて、様々な工夫が盛り込まれているようだ。確実な作動の意味は、突然ターボが効く様な、いわゆるドッカンターボではないと言うことらしく、なめらかに電気モーターによるアシストが加わることを目的としているようだ。昨年TS030のテストが始まった時、タイトコーナーから脱出する際、TS030は大きくパワースライドを演じた。2013年のTS030は、この様なアトラクションを演じることなく、素晴らしい加速性能を披露している。

 フロントでもリアでも、一方の車軸に電気モーターを備えて、電気モーターによって駆動と回生を行うハイブリッドカーの場合、ブレーキング時に、フットブレーキのみの車軸と、フットブレーキだけでなく電気モーターによる回生が行われる車軸の間でバランスを取ることが非常に難しい。この問題は、4輪に電気モーターを備える場合であっても変わらない。そのため、昨年登場したTS030は、テストが開始された後、しばらくの間、ブレーキングの際、非常にナーバスな動きを見せていた。場合によっては、どちらか一方のブレーキから白煙を吹き上げるシーンも目撃された。

 ハイブリッドにとって避けられない課題だが、トヨタは良好なブレーキバランスの実現に取り組んで、アケボノブレーキの助けを借りて、自然なフィーリングのブレーキを実現するため、精力的に開発に取り組んだ。そうして、非常にスムーズなブレーキシステムの実現に成功したようだ。
 たった1日しか走行テストを観察することは出来なかったが、2012年の初期のテストの様な白煙を吹き上げるシーンは皆無で、どのコーナーへアプローチする場合でも、非常にスムーズなブレーキングを可能としただけでなく、ターンインの際、ドライバーは子細なブレーキコントロールまで行っているようだ。非常に大きな進歩と言えるだろう。

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●2013年のTS030は速いのか?    ウサギさんが成功する方程式
 では、2013年のTS030は速いのだろうか? 昨日の走行テストを観察する限り、2013年のTS030は非常に速く走ることが出来る。レースでなくテストであるため、本来とは違う部分もあることから、ラップタイムの公表は行わない。しかし、少なくとも、2013年のTS030は遅いクルマではない。トヨタファンは、昨年10月のWEC富士の感動を再び期待しても良いだろう。

 ところが、昨年から今年にかけて、様々なレギュレーションが変更されている。そのほとんどは、クルマの安全性ではなく、クルマの速さに関わる項目で、トヨタの様なハイブリッドLMP1カーの場合、車重を15kg増やされる。アウディに代表されるディーゼルエンジンカーは、これまで非現実な程巨大なリストリクター径が与えられていたが、ほんの少しだけリストリクターは縮小される。少しだけディーゼルエンジンのパワーは減るが、同時に燃費が向上するため、優劣は判らない。

 当然ながら、トヨタの様なガソリン3.4リットルNAエンジンの方が、燃費は悪く、しかも、リストリクターが小さくなっても、アウディの様なディーゼル3.7リットルターボエンジンより出力は小さいことだろう。そのため、トヨタがアウディに勝つには、出来る限り速く走って、余分な燃料補給の時間を稼ぎ出さなければならない。トヨタは、常に全力で走る真面目なウサギさんであることが、成功の条件だった。
 ところが、2日前WECは、困ったレギュレーションの実施を決定した。

 従来ルマン以外のサーキット行われるWECの場合、何らかの問題が発生した際、2台のセイフティカーが導入された。つまり、トップを走っているトヨタは、セイフティカーが導入された際、最大半周のリードが帳消しになるだけだった。ところが、2日前に決まったルールによると、ルマン以外のサーキットで行われるWECの場合、セイフティカーは1台のみとなった。
 と言うことは、セイフティカーが導入された場合、トップを走っているトヨタは、最大1周のリードが帳消しとなってしまう。レース序盤により速く走って、早い段階でアウディを周回遅れとしなければ、WECの役員が都合の良い時にセイフティカーを導入した場合、あっという間にレースは振り出しに戻されてしまうのだ。ウサギさんのトヨタにとって、大変な問題が発生してしまった。

  たった1日だけ公開されたテスト走行の際、少なくとも我々は、トヨタのトラブルを1度も目撃することはなかった。細かなトラブルや手違いはあったのかもしれないが、走行を中断する程の手違いではなかったのだろう。
 そしてトヨタは、6人のドライバーの名前が記入されたTS030によって、21日から24時間レースを想定した長距離耐久テストを実施する。予定によると33時間程度の連続走行が想定されているようだ。
 たった1台しか存在しない2013年バージョン、しかも、たった2週間前にシェイクダウンテストを行ったクルマによって行われる長距離耐久テストであるから、トラブルが発生し易い部分を判定するためのテストと勘違いしてしまうが、TMGは、多くのスペアパーツをポールリカールへ持ち込んでいない。つまり、昔行われた長距離耐久テストの様に、壊れ易い部分を判定するのでなく、完全にレースを想定したテストを行うようだ。
 ウサギさんであることを義務付けられたトヨタにとって、壊れたら直すのでなく、カメさんを圧倒する速さで走って、しかも、絶対に壊さないで走ることが成功する条件と判断したのだろう。

*注:Sports-Car Racing Vol.21において特集記事が掲載されます。


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